花粉症とは
もはや国民病と言っても良いくらいの患者数がいる花粉症。
花粉症は、特定の花粉に対するアレルギー反応によって引き起こされるアレルギー性鼻炎の一種です。
日本では、スギ花粉やヒノキ花粉、ブタクサ花粉などが主な原因とされています。
これらの花粉が空気中に広がる季節になると、花粉症の人は鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどの症状に悩まされます。
花粉症の原因
花粉症は、特定の花粉に対する免疫系の過敏反応により発症するアレルギー性鼻炎です。
この過敏反応は、体が本来無害な外来物質(この場合は花粉)を誤って有害な侵入者とみなし、その排除を試みる免疫応答に起因します。
- 感作段階: 個体が初めてアレルゲン(花粉)に曝露されると、免疫系はアレルゲンを認識し、アレルゲン特異的なIgE抗体を生成します。この過程を感作と呼びます。
- 再曝露と反応: 次回以降、同じアレルゲンに再び曝露されると、以前に生成されたIgE抗体がアレルゲンを捕捉し、マスト細胞や好塩基球などの免疫細胞に結合します。これにより、これらの細胞は様々な炎症性メディエーター(特にヒスタミン)を放出します。
- 炎症性メディエーターの役割: ヒスタミンを含むこれらのメディエーターは、血管の透過性を高め、鼻粘膜の腫れや過剰な粘液生成を引き起こします。これが、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどの典型的な花粉症の症状を引き起こす原因となります。
- 遺伝的要因: 花粉症を含むアレルギー疾患は、遺伝的素因も大きな役割を果たします。アレルギー体質を持つ家族がいる場合、その体質を受け継ぐ可能性が高くなります。
- 環境要因: 花粉症の発症には環境要因も関与します。都市化、大気汚染、室内での過ごし方、食生活の変化などが、アレルギー疾患の増加に寄与していると考えられています。
このように、花粉症の発症は、複雑な免疫応答と遺伝的、環境的要因の相互作用によって決定されます。
したがって、予防や治療にあたっては、これらの要因を総合的に考慮することが重要です。
花粉症の患者数
日本で花粉症に悩む人々の正確な数はわかっていませんが、定期的に行われている調査によれば花粉症の患者は年々増加していることが明らかです。
耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした全国的な調査では、1998年には国民の約19.6%が花粉症であると報告されていました。
10年後の2008年にはその数は29.8%に増え、2019年には更に増加して42.5%になりました。
つまり、10年ごとに約10%ずつ増え続けているのです。
特にスギ花粉症は、2019年には全国民の約38.8%、ほぼ3人に1人が悩んでいるとされています。
スギ花粉症だけでなく、イネ科やブタクサ花粉症の患者数も増加しており、2019年には25.1%の人がこれらの花粉症で苦しんでいると推定されています。
環境省が行った調査では、約5,000人の小学生を対象に2002年から2年間にわたって実施され、スギ花粉症の有病率がスギ花粉の飛散量や親のアレルギー歴と関連していることが示されました。
花粉症の患者数が増加している背景には、さまざまな要因が関係していることがわかっています。
まず、空気中の花粉の量が年々増加していることが大きな理由の一つです。
さらに、空気汚染やタバコの煙、ストレスといった環境因子も花粉症を悪化させることがあると考えられています。
特に、都市部では空気が乾燥していることも、症状を強くする一因になるかもしれません。
この他にも、室内でのストーブやガスコンロの使用による空気の質の低下も、花粉症の症状を悪化させるとされています。
春になると、黄砂も花粉症の人にとって厄介な存在となることがあります。
食べ物と花粉症の関係についても興味深い発見があります。
例えば、シラカンバ花粉症の人は、リンゴやモモを食べた時に口の中がかゆくなりやすいとされています。
スギ花粉症であればトマトが、ブタクサ花粉症であればスイカが原因で同じような症状を引き起こすことがあります。
症状
- 鼻水や鼻づまり
- くしゃみ
- 目のかゆみ、赤み
- 喉の痛みやかゆみ
- 耳の中の圧迫感
- 頭痛
- 疲労感
これらの症状は、花粉の飛散する季節に特にひどくなります。
花粉症の予防・症状・治療
予防方法
- 外出時にはマスクやメガネを着用する。
- 室内の空気を清潔に保つために、空気清浄機を使用する。
- 定期的に掃除をし、花粉の侵入を防ぐ。
- 衣服や髪の毛についた花粉を室内に持ち込まないよう、帰宅後はすぐに着替える、シャワーを浴びるなどする。
- 花粉の多い日は外出を控える。
花粉症の治療は、症状の緩和と日常生活への影響を最小限に抑えることを目的としています。以下に、現在一般的に利用されている治療法とその特徴を詳述します。
薬物療法
- 抗ヒスタミン薬: 花粉症の症状であるくしゃみ、鼻水、目のかゆみを和らげるために最も一般的に使用されます。これらは、アレルギー反応によって体内で放出されるヒスタミンの作用をブロックします。抗ヒスタミン薬には、眠気を引き起こさない第二世代の薬剤もあり、日中の使用に適しています。
- ステロイド含有の点鼻薬: 鼻の炎症を抑えるために用いられます。これらは、鼻づまりや鼻粘膜の腫れを効果的に減少させることができますが、使用を始めてから効果が現れるまでに数日かかる場合があります。
- 抗アレルギー薬(抗ロイコトリエン薬): アレルギー反応に関与するロイコトリエンの作用を抑えることにより、鼻づまりや鼻水、くしゃみを和らげます。
- 点眼薬: 目のかゆみや充血を和らげるために使用されます。抗ヒスタミン作用を持つものや、抗炎症作用を持つステロイド含有の点眼薬があります。
免疫療法
免疫療法は、花粉症の根本的な原因に対処する治療法で、体のアレルギー反応を変えることを目的としています。この治療法では、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少量ずつ体に導入し、徐々に体を慣れさせることで、アレルギー反応を抑えるようにします。免疫療法には以下の2種類があります。
- SCIT(皮下免疫療法): アレルゲンを皮下に注射する方法で、数年にわたって定期的に治療を行います。この方法は、長期的な効果が期待できる一方で、アレルギー反応を引き起こすリスクも伴います。
- SLIT(舌下免疫療法): アレルゲンを舌の下で溶かして摂取する方法で、自宅で行うことができます。SCITに比べて副作用が少なく、使用が容易ですが、同様に長期間の治療が必要です。
花粉症に対するオンライン診療のメリット
花粉症の治療法は、薬物療法から免疫療法に至るまで多岐にわたります。症状の重さや生活スタイル、個人の健康状態を考慮して、医師と相談しながら最適な治療法を選択することが非常に重要です。この過程で、オンライン診療を活用することは、以下のようなメリットを提供します。
- アクセスの容易さ: 自宅や職場から、移動することなく医師の専門的なアドバイスを受けることができます。特に花粉の飛散がひどい時期に外出することの負担を軽減できます。
- 時間の節約: 通院にかかる時間を節約し、待ち時間なしで医師に相談できるため、日常生活や仕事への影響を最小限に抑えることができます。
- プライバシーの確保: 自宅から診療を受けることで、他人の目を気にすることなくプライバシーを守りながら治療を進めることが可能です。
- 継続的なフォローアップが容易: 定期的な治療や症状のモニタリングが必要な場合、オンラインで簡単に医師と連絡を取り合うことができます。治療の進行状況に応じて迅速に調整が可能です。
オンライン診療は、花粉症のような慢性的なアレルギー疾患の管理に特に有効です。適切な治療計画の策定から症状のモニタリング、必要に応じた治療法の調整まで、オンライン診療を活用することで、より柔軟かつ効率的に健康管理を行うことができます。
まとめ
花粉症の治療法は多岐にわたり、症状の重さや生活スタイル、個人の健康状態によって最適な治療法が異なります。薬物療法による症状の緩和から、免疫療法による長期的なアプローチまで、自身に合った治療法を医師と相談しながら選択することが重要です。花粉症の症状でお悩みの方は、専門の医療機関に相談して、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
参考:Ministry of the Environment, Japan. Pollen information site. 環境省. Accessed 2024-02-15, https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/.
監修医
島村泰輝
- 2012年3月 名古屋市立大学医学部 卒業
- 2014年4月 名古屋市立大学放射線科 入職
- 2015年4月 名古屋市立大学大学院博士課程入学 (専攻:生体防御・総合医学分野)
- 2019年3月 同大学院卒業、博士号取得
- 2019年6月 株式会社エムネス 入職
- 2022年10月 同 Medical Professional Service(医師部門)副本部長
- 2023年7月 オンラインメディカルクリニック開業
愛知県名古屋市出身。遠隔放射線画像診断を行う傍ら、AI開発、メディカル用プロダクト開発を行う。
医療としてはその他にも内科診療、訪問診療にも従事。医療はITでさらに良くなる事を信条として様々な取り組みを行う。
物理的、時間的に医療が届きにくい層に対して医療を届けるべくオンライン診療を中心としたクリニックを開業。今後は各種専門家とともに、遠隔地であっても質の高い医療を提供するサービスを構築していく。