八味地黄丸(はちみじおうがん)は、日本の漢方医学で広く用いられている代表的な漢方薬の一つです。
徳川家康の愛用した薬としても知られており、いまよりも寿命が短かった当時において長寿の秘訣の一つとも言われていました。
本記事では、八味地黄丸の効果や適応症、注意点などについて、最新の研究結果を踏まえて詳しく解説していきます。
八味地黄丸とは
八味地黄丸は、8種類の生薬(地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、牡丹皮、桂皮、茯苓、附子)を配合した漢方薬です。
八味地黄丸は「金匱要略(きんきようりゃく)」に記載されている薬です。
中高年の方々の体力低下や様々な不調の改善に用いられてきました。
特に、「腎虚」と呼ばれる状態に対して処方される薬であり、下半身の冷えや腰痛、頻尿などの症状に効果があるとされています。
八味地黄丸の効果と適応症
八味地黄丸は、以下の症状に対して保険適用があります。
疲労感や倦怠感が著しく、尿の減少または頻繁な排尿、口渇、手足に交互に冷感と熱感が現れる状態に対して、次のような症状に効果を発揮します。
- 腎炎
- 糖尿病
- 陰萎
- 坐骨神経痛
- 腰痛
- 脚気
- 膀胱カタル
- 前立腺肥大
- 高血圧
これらの症状に関連する状態として、以下のものが挙げられます。
これから、それぞれの状態について詳しく解説していきます。
頻尿と排尿障害
八味地黄丸は、頻尿や排尿障害の改善を狙って処方されることがあります。
具体的には以下のような症状の改善が期待できます。
- 排尿困難
- 残尿感
- 夜間頻尿
- 軽い尿漏れ
これらの症状は、特に中高年の方々に多く見られやすく、尿に関するトラブルは実問題だけでは無く羞恥の問題もあり、想像以上に生活の質を著しく低下させる原因となります。
下半身の冷えや腰痛
八味地黄丸は、下半身の冷えや腰痛の改善にも効果があるとされています。
例えば以下などの症状が挙げられます。
- 足の冷え
- 腰の冷え
- 腰痛
- 膝の痛み
これらは腎虚と呼ばれる、機能低下や血行不良が原因となっていることが多いため八味地黄丸によって改善の可能性が見込まれます。
骨や関節の痛みが長引く場合は、専門治療が必要なこともあり骨粗鬆症に特化した専門医が対応するイノルト整形外科をご活用ください。
全身倦怠感と疲労
八味地黄丸は、全身の疲れの改善にも効果があるとされています。
具体的には以下のような症状の改善が期待できます。
- 全身倦怠感
- 疲れやすさ
これらの症状は加齢や生活習慣の乱れによって引き起こされることが多いです。
気血水の気は腎にためているという漢方における考え方より、腎の機能を改善する事で気をためやすくするという考えによります。
目の症状とむくみ
八味地黄丸は、目のかすみやむくみの改善にも使われることがあります。
例えば下記の様な症状が挙げられます。
- 目のかすみ
- 目の疲れ
- 足のむくみ
- 手のむくみ
これらの症状は体内の水分バランスの乱れや血行不良が原因となっていることが多いため、八味地黄丸によって体内の水分代謝を整える効果や血行を改善する効果が期待できます。
前立腺肥大症
最近の研究によると、低用量の八味地黄丸が前立腺肥大症患者の症状を改善することが報告されています。
この研究では、2週間の低用量八味地黄丸の投与により前立腺肥大症患者の症状が改善されたことが示されています。
八味地黄丸の効果メカニズム
八味地黄丸の効果メカニズムについては、まだ完全には解明されていません。
しかし、最近の研究でいくつかの興味深い発見がありました。
PPARαの活性化
研究によると八味地黄丸はPPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)を活性化することが報告されています。
この効果は特に腎臓細胞で顕著であり糖尿病や腎機能に関連する可能性があるとされています。
PPARαの活性化は脂質代謝や炎症反応の調節に関与しており、これが八味地黄丸の多様な効果の一因となっている可能性があります。
糖尿病への効果
ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットを用いた研究では、八味地黄丸が高血糖を抑制しインスリン分泌を増加させる効果が示されています。
この結果は八味地黄丸が糖尿病の症状改善に寄与する可能性を示唆していますがさらなる検証が必要になります。
糖尿病性腎症への潜在的効果
八味地黄丸とその構成生薬である山茱萸が糖尿病性腎症に対して保護効果を持つ可能性が示唆されています。
この研究では八味地黄丸が糖尿病性腎症のモデルマウスにおいて腎機能を改善し、腎臓の炎症と線維化を抑制する可能性が示されました。
ただし、これらの効果の多くはまだ動物実験の段階であり、ヒトでの効果を確認するにはさらなる研究が必要です。
八味地黄丸の副作用
八味地黄丸は比較的安全性の高い漢方薬ですが、以下のような副作用が報告されています。
皮膚症状
- 発疹
- かゆみ
- 皮膚の赤み
消化器症状
- 食欲不振
- 胃部不快感
- 胃の不快感
- 下痢
その他の症状
- 動悸
- のぼせ
- 舌のしびれ
これらの症状が現れた場合は、服用を中止し、医師や薬剤師に相談することが重要です。
八味地黄丸の飲み合わせ・併用禁忌について
八味地黄丸には特定の医薬品との併用禁忌はありませんが、以下の点に注意が必要です。
- 既に八味地黄丸に含まれる成分と重複する成分をもつ漢方薬との併用は、過剰摂取による症状が出る可能性があります。
- 以下の人は、服用前に医師、薬剤師または登録販売者に相談する必要があります。
- 医師の治療を受けている人
- のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人
- 今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人
- 他の漢方薬や西洋薬と併用する場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
- 妊娠中または妊娠の可能性がある方、授乳中の方は、特に注意が必要です。薬物使用が胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、必ず医師に相談してから使用を検討してください。
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まとめ
八味地黄丸は、頻尿や下半身の冷え、腰痛などの症状に効果が期待できる漢方薬です。
特に中高年の方々の様々な不調の改善に用いられてきました。
最近の研究では、前立腺肥大症や糖尿病性腎症への潜在的な効果も示唆されていますが、これらの新しい適応症については、さらなる研究が必要です。
八味地黄丸を服用する際は、以下の点に注意しましょう。
- 自己判断で服用せず、必ず医師や薬剤師に相談する
- 処方された用量を守って服用する
- 副作用の兆候が現れたら、すぐに服用を中止し、医療機関に相談する
- 他の薬との併用には十分注意する
漢方薬は、長期的に服用することで効果が現れることが多いです。
効果を実感するまでに時間がかかる場合もありますが、焦らず継続的に服用することが大切です。
八味地黄丸を含む漢方薬の服用については、オンラインメディカルクリニックなどの専門家に相談し、自分に合った最適な使用方法を見つけることをおすすめします。
参考文献:
[4] Herbal medicine, Hachimi-jio-gan, and its component cinnamomi cortex activate the peroxisome proliferator-activated receptor alpha in renal cells - PubMed
監修医
島村泰輝
- 2012年3月 名古屋市立大学医学部 卒業
- 2014年4月 名古屋市立大学放射線科 入職
- 2015年4月 名古屋市立大学大学院博士課程入学 (専攻:生体防御・総合医学分野)
- 2019年3月 同大学院卒業、博士号取得
- 2019年6月 株式会社エムネス 入職
- 2022年10月 同 Medical Professional Service(医師部門)副本部長
- 2023年7月 オンラインメディカルクリニック開業
愛知県名古屋市出身。遠隔放射線画像診断を行う傍ら、AI開発、メディカル用プロダクト開発を行う。
医療としてはその他にも内科診療、訪問診療にも従事。医療はITでさらに良くなる事を信条として様々な取り組みを行う。