
現代社会では、「特に大病ではないけれど何となく体調が優れない」「イライラや不眠が続く」といった悩みを抱える方が少なくありません。
こうしたストレスや軽い不調に対し、漢方薬の抑肝散(よくかんさん)が注目されています。
抑肝散は古来より心身を落ち着かせる効果が期待される処方で、自律神経の乱れや精神的なストレスによる症状を和らげ、心と体のバランスを整える助けになります。
本記事では、抑肝散の歴史や成分、効果や副作用について正しい知識をわかりやすく解説し、どのような症状のときにオンラインの医療機関に相談すると良いかを紹介します。
抑肝散とは?
抑肝散とは、江戸時代から現代まで用いられてきた漢方薬で、神経の高ぶりやイライラを鎮める効果で知られています。
その起源は中国の明代(16世紀)、『保嬰金鏡録』に記載された処方にさかのぼります。
もともとは痙攣を起こしたり驚きやすい子供に使う処方として生まれ、「子母同服」(子供と母親が一緒に服用する)と記されていました。
この記述から、親子の精神状態の関係にも注目していたことが伺えます。
その後、中国では一時途絶えましたが、江戸時代の日本で頻用されるようになり、現在まで受け継がれてきました。
抑肝散は7種類の生薬から構成されています。
具体的には、蒼朮(そうじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・川芎(せんきゅう)・釣藤鈎(ちょうとうこう)・当帰(とうき)・柴胡(さいこ)・甘草(かんぞう)といった生薬の組み合わせで作られています。
それぞれ胃腸の調子を整えたり、血流を改善したり、神経の興奮を抑える働きを持つ生薬です。
例えば、釣藤鈎(カギカズラ)は古くから鎮静作用やけいれんを抑える効果が知られ、柴胡や川芎は「肝」(漢方でいう精神や自律神経の働きの座)を整える生薬です。
甘草は調和剤として処方全体のバランスをとりつつ、炎症を抑える役割も果たします。ただし甘草は後述するように副作用の原因にもなり得る成分です。
抑肝散は医療用だけでなく市販薬(第2類医薬品)としても販売されています。
子どもから高齢者まで幅広い年代で使用でき、生後3か月以上の乳幼児にも夜泣き対策として用いられることがあります。
それだけ比較的安全性が高い漢方薬と言えますが、用いる際は専門家の指導に従うことが大切です。
現代医学的な観点から見ると、抑肝散には神経伝達物質のバランスを調整する作用が報告されています。
動物実験では大脳辺縁系で興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を抑制し、過剰な神経興奮を沈静化させることが確認されています。
また、セロトニン受容体(脳内の感情や不安に関与する受容体)の数を調整する作用も示されており、攻撃的な行動や不安を和らげる効果につながっていると考えられています。
以上より、抑肝散はイライラや不安、不眠といった症状の改善に寄与すると考えられます。
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抑肝散の効果が期待できる症状
抑肝散は、主に精神神経系の症状の緩和を目的として用いられます。
具体的には「神経が高ぶった状態」を鎮める漢方薬として位置付けられており、以下のような症状・疾患に効果が期待できます。
イライラしやすい、怒りっぽい
ストレスや精神的緊張で怒りの感情が抑えられないとき。更年期障害や月経前症候群(PMS)で感情コントロールが難しい場合にも用いられます。抑肝散という名前が示す通り、「怒り」の感情に着目した処方です。
不眠症
神経の高ぶりやストレスにより、なかなか寝付けない、眠りが浅いといった不眠症状に処方されます。
興奮と緊張が入り混じったタイプの不眠(イライラして眠れず、夜中に何度も目が覚める等)に適しています。
神経症
特に不安感や緊張感が強い神経症状に用いられます。抑うつ状態や不安神経症の軽症で、イライラ感を伴うケースで効果が報告されています。
更年期障害
40~50代に訪れるホルモンバランスの乱れによる精神不安定やイライラに対して有効です。
漢方では女性ホルモンの変化に伴う不調を「血の道症」と呼びますが、抑肝散は古くからこの更年期や産後の精神不調(血の道症)にも用いられてきました。
PMS(月経前症候群)
生理前のイライラや落ち込みなど気分変動がある場合にも適します。症状の出ている期間だけ服用する使い方も可能です。
小児の夜泣き・疳虫(かんむし)
小さいお子さんが夜泣きをする、癇が強い(神経過敏でかんしゃくを起こしやすい)場合に、小児科で抑肝散が処方されることがあります。
前述の通り生後3ヶ月以降の乳児でも使用可能で、安全性の高さから育児の現場でも用いられています。
歯ぎしり
精神的ストレスが強い人で睡眠中に歯ぎしりをする場合に、緊張緩和の目的で抑肝散が使われることがあります。
噛み合わせ治療と並行して漢方でストレスケアを行うわけです。
以上のように、抑肝散はストレス関連の幅広い症状に対応する漢方薬です。
とりわけ「怒り」「イライラ」といった感情面の症状に着目して処方されるケースが多く、年代を問わず使われています。
高齢者では認知症に伴う怒りっぽさや幻覚症状の改善目的で処方されることもあり、後述するようにエビデンスも蓄積されています。
どのような方がクリニックに相談すると良いか
上述したような症状に心当たりがある場合、自己判断で市販薬を試す前に医師に相談することをおすすめします。
特に以下のような状態が続く方は、漢方の専門家やオンラインの医療機関に相談してみるとよいでしょう。
イライラや怒りを自分でコントロールできない
小さなことで怒りっぽくなったり、常に落ち着かず神経が尖っている感じがある。
原因不明の不眠や不安感が続いている
生活リズムを整えてもなお寝つきが悪い、夜中に目が覚めてその後眠れない、といった不眠が慢性化している。
更年期かな?と感じる精神的な揺らぎ
40代以降で、ホットフラッシュなど身体症状とともに情緒不安定やイライラが目立ってきたが、ホルモン治療以外の方法も検討したい。
「自律神経失調症」と言われたことがある
検査では異常がないのに動悸や息切れ、不安やめまいなどがありストレスの関与を指摘された場合で、薬の服用に抵抗がある。
ストレスによる軽い体調不良が続く
肩こりや胃腸の不調、頭痛などがストレスで悪化する傾向があり、リラックス法を試しても改善しない。
上記のような「病気とまでは言えない不調」が続く場合、漢方薬による体質改善が有効なことがあります。
抑肝散は比較的マイルドな処方とはいえ、症状や体質に合っていなければ十分な効果は得られませんし、誤った自己判断で服用すると効果が得られないばかりか副作用のおそれもあります。
そのため、「もしかして抑肝散が自分に合うかも?」と思ったら、まずは医師に相談してみましょう。
オンラインのメディカルクリニックであれば、忙しい方でも自宅から医師に相談できるため、こうした軽い不調の相談に適しています。
関連記事:低気圧による頭痛の対策法|痛み止めやコーヒーは本当に効果がある?
抑肝散の副作用と注意点
漢方薬の中でも抑肝散は比較的安全性が高く副作用の少ない処方とされています。
長年の使用経験から大きな危険性は少ないことがわかっていますが、医薬品である以上副作用や注意すべき点も存在します。
ここでは抑肝散の主な副作用と、安全に使うためのポイントを解説します。
主な副作用
まれに発疹・発赤、かゆみなどのアレルギー症状や、食欲不振・胃の不快感・下痢など消化器症状が現れることがあります。
ごく一部に眠気(傾眠)や倦怠感を感じる方もいます。
これらはいずれも頻度は高くありませんが、もし体調に異変を感じた場合はいったん服用を中止し、医療機関を受診してください。
また、添付文書上は間質性肺炎(せきや呼吸困難などを伴う肺の重い副作用)や肝機能障害の可能性もごく稀ながら記載されています。
特に長期間服用している場合、定期的に体調の変化に注意を払いましょう。
甘草(カンゾウ)による副作用
抑肝散に含まれる甘草という生薬は、副作用として偽アルドステロン症を起こすことがあります。
偽アルドステロン症になると、低カリウム血症や血圧上昇、ナトリウム・水分の貯留(むくみ)、体重増加などが生じ、重症化すると手足の脱力(ミオパチー)や心不全につながるおそれがあります。
これは甘草に含まれるグリチルリチンという成分の作用によるものです。ただし、適正な用法用量を守れば稀な副作用です。
特に高齢者や心臓・腎臓が弱い方は念のため注意が必要です。
併用禁忌・相互作用
抑肝散自体に絶対的な禁忌(この人には使ってはいけないという条件)は特にありません。しかし、他の薬との相互作用には注意が必要です。
とくに甘草を含む他の漢方薬(例:芍薬甘草湯、甘草湯など)や、グリチルリチン酸配合製剤(抗アレルギー薬やシロップ剤など)、さらに利尿剤や降圧剤を服用中の場合は、低カリウム血症や高血圧のリスクが高まるおそれがあります。
これらを併用していると、副作用(偽アルドステロン症)の発現リスクが上がるため医師・薬剤師に必ず相談しましょう。
また、市販のサプリメントを飲んでいる場合も、成分が重複する可能性があるので注意が必要です。
妊娠・授乳中の使用
妊娠中や授乳中に抑肝散を服用することも可能な場合がありますが、自己判断での服用は避けてください。
妊娠中は母体の状態が変化しやすく、漢方薬でも予期せぬ影響が出ることがあります。特に妊娠初期や授乳期は注意が必要です。
妊娠中・授乳中の方は、抑肝散に限らず服用前に必ず主治医に相談しましょう。
以上の点を踏まえれば、抑肝散は適切に用いる限り副作用の少ない安全な薬です。
何か持病がある方や他の薬を飲んでいる方は、医師に現状を伝えた上で処方してもらえば過度に心配する必要はありません。
抑肝散の効果が出るまでの期間の目安
漢方薬全般に言えることですが、抑肝散も即効性を期待する薬ではない点に注意が必要です。
症状の程度や体質にもよりますが、効果を実感できるまでには数週間~1か月ほど継続服用するのが一般的な目安です。
これは漢方薬が即座に症状だけを抑えるのではなく、体質を改善して根本から症状の緩和を図ることを目的としているためです。
実際の臨床では、まず2週間程度服用して様子を見ることが多いようです。
症状が徐々に和らいでくる場合もあれば、人によっては服用開始から数日で気持ちが落ち着いたと感じるケースも報告されています。
ただし効果の出方には個人差が大きく、焦って短期間でやめてしまうと本来得られる効果を見逃す可能性があります。
医師の指示に従いながら一定期間続け、症状の変化を確認しましょう。
一方で、「漢方=即効性がない」と思われがちですが、症状や体質によっては比較的早く効果を感じることもあります。
抑肝散は含まれる生薬の種類が7種と比較的少なく構成がシンプルなため、必要に応じて一時的に服用しても効果を発揮しやすいとも言われています。
実際に「怒りでカッとなりそうな時に抑肝散を飲むと、気持ちがスッと落ち着いた」という声もあり、頓服的に用いる使い方が有効な場合もあります。
もっとも、こうした使い方は自己判断ではなく専門家の指導のもとで行うことが望ましいでしょう。
西洋医学的なエビデンス
抑肝散は経験的な効果だけでなく、近年は科学的な研究データ(エビデンス)も蓄積されつつあります。
特に注目されているのが、認知症の周辺症状(BPSD)に対する有効性です。
高齢者の認知症では、幻覚・妄想や攻撃的行動、不安といった行動心理症状が問題となりますが、抑肝散がこうした症状の緩和に寄与するとの報告があります。
例えば、認知症患者のBPSD改善効果について複数のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、抑肝散を投与した群で興奮・攻撃性、幻覚、妄想などのスコアが有意に低下したと報告されています。
副作用による中止率もプラセボ群と差がなく、安全に継続できたとのことです。
その結果、研究者らは「抑肝散は認知症の行動心理症状に対し、有効かつ安全な治療選択肢になりうる」と結論づけています。1
また、近年の報告では、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などでも幻覚や興奮などの症状が抑肝散で改善したとされています。
このように、西洋薬だけでは対応が難しい症状に対して漢方の抑肝散が効果を示すケースが増えており、日本老年精神医学会などでも注目されています。
さらに、統合失調症やレム睡眠行動障害、レストレス・レッグス症候群などへの応用についても研究が行われており、精神神経領域で幅広い可能性が模索されています。
抑肝散はこのように科学的エビデンスと伝統的知見の両方に支えられた漢方薬です。
今後もさらなる臨床研究が進めば、より明確な位置づけが確立されるでしょう。
関連記事:オンライン診療における処方箋のもらい方をわかりやすく解説
オンラインメディカルクリニックでの相談のメリット
忙しい現代人にとって、オンライン診療は手軽に医師のアドバイスを受けられる便利な手段です。
抑肝散のような漢方薬について相談したい場合でも、オンラインのメディカルクリニックを活用するメリットは多くあります。
自宅から気軽に相談できる
クリニックに足を運ぶ必要がなく、スマホやパソコンで予約から診察まで完結します。通院の負担がないので、仕事や育児で忙しい方でもスキマ時間に受診可能です。
待ち時間が少ない
オンライン診療は予約制が主流のため、病院の待合室で長時間待つストレスがありません。自宅で順番を待てるのでリラックスして診察を受けられます。
人目を気にせず相談できる
メンタルの不調や更年期の症状など、他人に知られたくない悩みもオンラインなら周囲の目を気にせず話せます。プライバシーの面でも安心です。
医師と相談しやすい
近くに漢方に詳しい医師がいない場合でも、オンラインなら地域を問わず医師につながれます。抑肝散が自分に合うかどうか、その場で相談できるのは大きな利点です。
処方薬の受け取りもスムーズ
オンライン診療で医師が抑肝散を含む薬を処方した場合、提携の薬局から自宅へ郵送してもらえるサービスもあります。
忙しくて薬局に行く時間がない人でも治療を継続しやすくなります。
このように、オンラインメディカルクリニックを利用すれば、抑肝散について疑問や不安を医師に相談しやすくなります。
特に「病院に行くほどではないけれど相談したい不調」を抱える方にとって、オンライン診療はハードルを下げてくれる心強い味方です。
気になる症状があれば、一人で悩まずオンラインで気軽に相談してみるのはいかがでしょうか。